Sweet and Sweet

しっぽさんイラスト


待ち合わせの時間に少し遅刻しそうになっていた僕は駅をでてすぐの大通りを人の波を掻き分けるようにして足早に歩いていた。
目覚めたばかりには肌寒く感じるほどだった今朝の空気も、晴天の日中になるとかなり気温も上昇していて、洋服の中で先ほどからしっとりと汗ばんだ肌にシャ ツがまとわりつくようで少し気持ち悪い。

厚手のシャツの上にニットのセーターを着てきたことを僕は少しだけ後悔していた。

付き合い始めて3年目を迎える僕の恋人は、高校時代の同級生。

2年に進級し、新しいクラスに馴染み始めたころ行われた席替えの後のこと。メガネをかけるほどではなくても後ろの席だと黒板の文字が見づらくて不便だと言 う理由でその時決まった自分の席を代わってほしいと申し出た僕に、一番前は見張られているようで嫌だからと自分の席を譲ってくれたのが彼だった。そこで初 めて言葉を交わしたことが、後々お互いを意識する最初の切欠だったりするのだから人生って良くわからないものだ。


それからだと思う、休み時間は気がつけばいつもとなりにいて、部活は違っていても帰宅時間は似通っていて帰り道も同じ方角だったから良く彼の自転車に僕が ニケツして一緒に下校した。

馬の合う仲の良い友達……。

そんな言葉がぴったりの二人の関係、その均衡が崩れたのは高校卒業を間近に控えた3月のある日、その日はすごく寒い1日だったことを覚えている。
春からそれぞれ別の大学に通うことが決まっていた僕たちは、寂しくなるなと他愛も無いことを話しながらいつものように通学路を帰った。
いつもは自転車で帰る道のりをそろって歩きで帰ったのは、一緒の時間を少しでも長く過ごしたいと二人とも考えていたからかもしれない。

「でもさ、何も地方の学校に行くわけじゃないんだし、これからだって会おうと思えばいつでも会えるよ」
笑いながら彼を見上げた僕の目にいつになく真剣な眼差しで僕を見つめる彼の顔が映る。

「藤沢……?」
その表情はどこかこわばっているようにも見えて、僕は気付かないうちに彼を怒らせるようなことでも言ってしまったのだろうかと少しだけ不安になった。

「し、新城――俺とつきあわねぇ?」
「え?」
彼の言う『付き合う』が何を意味するか即座に理解できなかった僕はぽかんと口を開けたまま彼の顔を見つめてしまった。
その時だ、本当は部活の後、いつも帰宅時間が似通っていたのは偶然なんかじゃなく彼が僕に合わせていたからだと言う事を聞かされたのは。
半分は彼の勢いに押されるようにではあったけれど、それから僕たち二人は付き合い始めた。

友達以上恋人未満。

男同士だからとかさほど堅苦しく考えるでもなく、最初は高校時代の延長といったそんな付き合い方だった。
それでもその付き合いが長くなるにつれ、その関係も少しずつ深いものへと変化していく。

お互いがお互いの存在をかけがえの無いものだと意識するようになるにはそれほど時間はかからなかったように思う。



――怒ってるかな?
待ち合わせの時間に一度や二度遅刻したくらいでヘソを曲げてしまうほど狭い心の持ち主ではないと思うけれど、実はこのところ3連荘で遅刻している。
僕は、チラリと腕時計に視線を落とし、歩くスピードを更に速めた。


二人で会う時に良く利用するこの公園は、 過去には陸軍の連兵場としても使われいたらしく、都内では4番目の広さを誇り敷地面積はおよそ東京ドーム11個分ほどもあると言う大きな公園だ。
近隣には国立の競技場やテレビ局、駅からも歩いて数分で来られるかなり利便性の高い場所にある。
いわば都内の一等地、そんな場所にあるのに敷地内に一歩足を踏み入れれば都会の喧騒からかけ離れた別世界だ。広々とした園内にある沢山の木々や草花が、こ こが都心であること忘れさせてくれる

沢山の人が思い思いのスタイルで休日の午後を愉しむ広い園内で、たった一人の人を探すのは普通に考えれば大変なことなんだけれど、お気に入りの場所が決 まっている彼に限ってみればそれほど難しいことでもない。目的の場所へと急ぐ僕はほどなくして、その視界の先に見覚えのある人の姿を発見した。

あの赤い洋服の……間違いないあれはきっと彼だ。
どんなに遠くに居てもなぜか彼だけはきちんと見つけられる自信がある。
示し合わせてきたわけでもないのに、似たような色合いの服がまるでペアルックみたいだと、そんな事を考えた僕は自分のその考えに少しだけ照れた。

芝生の上にごろりと仰向けに寝転がっている彼は僕が近づいて行っても、目を覚ます気配は無かった。
そんなに長い間待たせてしまったのかと少し不安になりながら、かといって起こすに忍びなく、出来るだけ邪魔にならないような位置にそろりと静かに腰を降ろ す。

今日は思った以上に暖かいから、気持ちよくてつい転寝してしまったのかも……そういえばゼミのレポートの提出期限がもうすぐだとか言ってたっけ。

気持ちよさそうに眠っている彼の横でその寝顔を見ていたら、もう少し傍で見てみたくなった。
よく眠っている彼を、起こさないように気をつけながらとそっと近寄る。

規則正しく聞こえる寝息。起こさないで居るとかえって後で怒るだろうかとそんな考えも頭に浮かんだが、本当に気持ちよさそうに眠っているのを邪魔するのも 気が引けて、それに何よりその寝顔をもう少し見ていたいと僕が思ってしまったのだ。
睫毛が意外に長いんだとか、少し栗色の髪の毛が光に透けると綺麗だとか、そんな些細なことに改めて気付いて嬉しかったから。

無防備に薄くひらいた唇、触れたい、キスしてみたいという心境に唐突に駆られた。
突然目を覚ましてしまったらやっぱり気恥ずかしいから、起こさないようにとそっと近づいていく。

ゆっくりと顔を近づけて、唇があと少しで触れ合うという距離まで顔が近づいた時、それまで閉じていた彼の瞼がいきなり開き、驚いた僕は、あっと小な叫び声 をあげてそのままの状態で固まってしまった。

「なぁ拓実、一緒に暮らさねぇ?」
「え?」
「一緒に暮らせば、お前が朝寝坊しそうになっても俺が起こしてやれる」
遅刻したことを遠まわしに牽制されているのかと思ったが彼の表情を見る限りどうやらそれとは少し違うようだ、予想していなかったことを唐突に言われて、ど う返答して良いわからずぱちくりと目を瞬かせる僕をみて困っていると思ったのだろうか彼は慌てたように更にそう言い募る。

「今すぐになんていわない就職もちゃんと決まって、学校を卒業してからでいいよ。」
「えっと……あの克也?」
「俺の寝顔毎晩見たいとおもわねぇ?」

その一言に僕は思わず噴出していた。
確かにそれも悪くはない。

「なぁ一緒に暮らそう?」
僕を見る彼の瞳はあの日と同じように真剣そのもの。
僕は笑いながら目の前のその唇に甘い、甘い口付けをおとす。

そう、これが僕からの君への返事。

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オンでもオフでも仲良くしてもらってる「不完全燃焼」のしっぽさんちが3周年記念に フリーイラストを配布していました、あんまり可愛かったので即効お持ち帰りvv
あんまり可愛いもんでつい手が動いてしまって……ははは、勝手に弄り回してお話作ってしまいました。
久しぶりに爽やか路線の話を書いたら、なんだかとても乙女チックな話になってしまったような気がします(笑)
しっぽさんちの不完全燃焼さんは下のバナーからどうぞvv
優しい色合いのイラストが素敵なサイト様です。
不完全燃焼バナー


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