違う……

<− written by kei −>

「高梨っていつも一人でいるんだよね。」
突然声が聞こえた。ぼんやりと教室で、午後の授業の始まりを待っていた俺はその声が誰かはすぐわかった。

如月貴也、同級生。

「えっ?」
俺は困惑した。なんでコイツが俺に声をかけるんだ。俺の訝る表情がおかしかったのか、如月は喉からクックと小さな鳥が鳴くような声を出した。

「そんなに驚かなくてもいいじゃん。」
からかうような響きを持ったその声に、少しばかり苛ついた。
「何か用か?」
俺は不機嫌な声を出した。
「うーん、別に用はないんだけど。なんとなく。」
サラッと髪が音を立てて震えたような気がした。
「用がないなら構う事ないだろう。暇なのか?」
「うん。そう暇なんだ。」
またサラっと髪が揺れる。
俺は無意識に自分の頭に手をやると髪をかきあげた。硬質の髪が手に当る。
「で、なんで一人なの?」
俺の上からまた聞いてくる。

なんで・・・ってそんなの理由があるのか?別に他のやつらと一緒にいたいと思わないだけだ。

「理由なんか無い。」
俺はいつも通りにそっけなく言った。

「変だね。」
高梨って・・・。如月が呟く。

そうかもな。
俺は周りを見渡した。教室の中は昼休みの喧騒があった。
何人かずつひと塊になって話をしている。もちろん中には一人のヤツだっている。
まあ、大概一人のヤツは、ぼんやりとはしていない。
雑誌を読んだり、書き物をしたり、期限の迫った提出物をやったり、なにかしらしている事がある。
何もせずぼんやりと時を過ごしているのは俺だけのようだ。

「それで、その変な俺に声をかけてきたわけか。」
俺がぼそりと言う。
「そう。」
如月が俺を覗き込むように見た。俺の目の前に、薄茶色の瞳とサラっと音を立てる彼の髪があった。
俺の顔に赤みが差したのを如月が見つけたのか、小さく笑って俺から離れた。
それから如月は俺の横の机に腰掛けると、知らない曲を口ずさんでいた。

午後の授業開始のベルがなった。如月は自分の席へと戻っていき、俺はいつものように教科書を出した。




その日から、昼休み俺の側に如月がいた。俺の知らない唄を口ずさみ、時々俺の机を蹴っ飛ばす。
そのたび俺は如月に視線をむける。
するとまた如月は唄を口ずさむ。そんなことが何日か続いた。
俺の頭には如月の口ずさむメロディが知らず知らず流れていた。


「ねえ、高梨。」
珍しく如月が俺に声をかけた。最初声をかけてきてから、2度目だった。
「なんだ?」
俺は如月の顔を見た。内心驚いている。
「今日さ、いっしょに帰らないか?」
「え、どこに・・・。」
間抜けた事を言った。俺は俺の言葉にまた顔が赤くなる。これも2度目の事だった。
「どこに・・・って、家だよ。」
如月までも間の抜けた返事をする。少し見開いた如月の瞳が可笑しい。

 俺は声を立てて笑っていた。
 如月も笑う。

俺の後ろの方で、珍しいこともあるもんだぜ。と言う他の同級生の声が聞こえた。
それもなんだか可笑しかった。俺と如月は顔を見合わせてまた笑った。



その日の放課後俺たちは並んで駅へと向かっていた。最寄の私鉄の駅までは歩けば3・40分はかかる。
いつもはバスを使っているが、今日はどちらともなく歩き出した。

昼休みに、ここ最近こんなに笑ったことはない、というくらい如月と笑った。何がおかしいというわけではなかった。

よく「箸が転げてもおかしい年頃」という喩えがあるが、あれは女の子限定のものだと思っていた。
でもどうやら違ったみたいだ。
俺たちにもそれが当てはまった。

「ねえ、高梨。もう一度聞くけどさ、どうしていつも一人?」
如月は歩きながら俺の前に回りこむようにして尋ねた。サラっと髪が鳴る。
「そうだな。面倒くさいから。」

それって、答えになってるのか・・・。
如月の呟く声が聞こえる。そうだな。答えにはなってないかもしれないが、そうとしか言えない。


如月が続けて聞いてくる。ああ、その答えが正解か。俺は自分の中で納得する。
「楽だから?」
「それが一番近いかもな。」
「なんとなくわかるよ、それって。」
そのまま、会話は途切れる。でも嫌じゃない・・・如月といるのは。

『楽』だから・・・。

黙ったまま、道を歩く。如月の唄を聴きながら。


「歌うのが好きなのか?」
如月の声が止まる。足も止まった。俺はなぜだろうと如月を見る。


「初めてだね。高梨から何か言ったことって。」
如月がニコッと笑う。そうだったかな。俺は考えてみる。
そういえばコイツと言葉を交わしてから、返事以外では俺から何か言ったことがない。

「高梨、おれってどう見える?」
如月が聞いてくる。どう見えるって、どういう意味だ。俺の心が警戒する。踏み込むな。

「どう見えるって言われても」
「俺って誘ってるように見えると思う?」
「誘う・・・?」
その意味を俺は考えたくなかった。コイツは何を聞きたい?俺に。


「そう、誤解されるんだ。いつも。」
淋しそうに俺に話す。
「俺は誘ったことなんか、一度も無いのに誤解して俺に近寄ってくるんだ。皆。」
「ちょっと待て、誘ってるじゃないか、俺を。」
如月がえっと訝しげに俺を見る。
「お前、今日一緒に帰ろうって誘っただろ。」
如月の顔が綻ぶ。サラサラと髪が揺れる。クックと小鳥の鳴くような声で笑う。

「違うよ。高梨。よくね、付き合ってくれって言われるんだ。」
そんなことわかってる。
俺は心で呟いた。

「女からも・・・男からも。」
言いにくそうに如月が言葉を続ける。

「お前、どうして俺に聞くの?それを。」
「だって、俺が側にいても何にも言わないし、俺のことも見ないだろう。高梨は。他の連中とも特別話しをしていないし。冷静に見てもらえると思って。」
「それじゃ、な答えはひとつだ。」
「うん。」
「誘ってる。」


如月が大げさな溜め息を吐いた。

「やっぱり、そう見えるか。」
「そうだな。」
「それじゃ、本気になっても相手にはわかってもらえないんだろうか。」
おいおい、恋愛相談するための俺か?
「それはわからんさ。お前の気持ひとつだろ、相手に対するさ。」
俺は半ばヤケクソで答えている。こういうのが面倒で話をしないという理由もあった。


それに・・・。
「そう、そうだよな。悪いな高梨、急にこんな話になって。」
強気なヤツに見えていた如月の認識が変る。危険信号が出ていた。
だから、俺は誰とも口を利かないんだ。こんな気持ちになったら、ヤバイ。

同級生。そうそう俺と同じ趣味のやつはいない。男が好きな男。如月だって見かけはそんな風にも見える。
けれど中身は健全な高校生、俺と違って。ひと目を惹いて、それ故孤独な・・・。

違うよ、如月。俺がお前を誘ってしまう。
ある日突然そいつを意識してしまったら、俺は態度に出さないなんて自信がない。

きっと・・・それは、始まってしまうだろう。
如月、お前誘うなよ。その態度って俺には酷だ。

黙って駅まで歩いた。
「また、明日な。」
「ああ。」

駅でホームの反対側に別れて立った。
電車を待つ間、あいつの横に並んだ見知らぬ人にさえ、無言で嫉妬の目を向ける俺。


翌日の昼休み相変わらず、如月は俺の側で、歌を口ずさむ。

俺は・・・ほらみろ・・・顔が・・・赤い。
もう決めた。黙っているのはもう止めにする。


  違うと言っても・・・もう戻れない。

  戻らない。

                            
                        END


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以前私の書いたイラストにお話を付けてくださったKEIさんが50000Hit達成のお祝いにと
お話を書いてくださいました〜 わーいわーい!!皆そろって学園物・・・
いえいえ、影響を受けたのは私の方です、KEIさんまたまたありがとうございました
大切に致します〜vv