泡沫の恋…

「なあ、もう別れないか・・・俺たち・・・」

そう、彼が言い出したのが、つい昨日。
わかっていた、彼がもうこんな関係に嫌気がさしていたのを。

この間から、態度がおかしかったもんな。

多分上司に薦められた見合い話に、乗る気なんだろう。
僕は知っている。その見合いがほぼ確定していることだということも。
相手の一目惚れだとかいうことで、部長が彼に打診してきたことも。

わかっていた、この日が来ることは。
いつの頃からか、彼がまた元いた場所に帰って行ってしまうのを知っていたから。

僕たちの出会いはいきなりだった。
社の慰安旅行で、誰もいなくなった温泉の大浴場。
着替えていた僕の項に後ろから、接吻してきたのが彼だった。
驚く僕に、どうしてかな・・・なんてふざけた答えで返して・・・。

僕はその項に当てられた唇の熱さに融かされて・・・。
それから始まった二人の関係。
いつか終わる、いつか終わると自分を誡めながら、それでも幸せを感じていた。
終わらずに続けばいいのにと、何度も思う自分の心に慄きながら。

その時がきただけ、ただそれだけ。
僕は心と裏腹に頷いていた。

「うん、わかった。」

そう言いながら今夜また彼に抱かれた。
別れるなら、こんなに優しい手で抱かないで欲しい。
全身に降り注がれる彼の唇に、愛を感じていたのは僕だけだったのだ。
彼にとってはほんの気の迷いで、また元の場所に戻ることに彼は躊躇もないのだろう。

僕との関係は長い人生のほんの一時のこと。
その人生に最初から、自分の存在など無かったのだから。

なんども触れられる、項への口付けに僕はいつしか涙を流していた。
この手が明日からは別の人のものになる。この唇がもっと柔らかく、赤く彩られた唇を啄ばみ、柔らかな乳房を吸う。でも、項への口付けは僕だけのものでいて欲しい。

激しく後ろを攻めたてられながら僕は項への口付けを何度もねだっていた。

「言えよ・・・。」
彼がそう言った。
何を?何を言うんだ?もっと、突いて、かき回して、ぐちゃぐちゃにして。なんて言葉を吐けばいいのか?

「言えったら・・・」
執拗に彼が囁く。

「なっ・・・何を言えっていうんだ・・・」
僕の声が喉に張り付いて漏れる・
これ以上惨めな気持ちを持たさないでくれ・・・。
僕の目から悔し涙が溢れる。

僕はいつか叫んでいた。

「別れていく奴に何も言うことなんか、あるもんか・・・。僕の気持ちなんか・・・判らないくせに・・・」
「だから言えっていっているだろ・・・」
彼の声は甘い。そう言いながら僕の項に唇で愛撫を繰り返す。

「止めて・・・止めてくれ・・・お願いだから・・・」
僕はくず折れそうになる身体を必死で支えて、彼を見た。

「言うことが違うだろ・・・」
僕の身体を抱きしめて、流れる涙をそっと指先でぬぐう。そんな仕儀さが優しいと感じてしまうのは、この人を愛しているから。

身体を繋ぐだけじゃなく、心も欲しいと思っているから。でも僕は別れを切り出した彼から、無理矢理心を引き剥がさなくてはいけないのに・・・。

「行かないで・・・くれ。別の人の手を取らないで・・・。」
言ってはいけない言葉が唇をついて出た。情けないほど彼の身体にしがみついて「行かないで・・・行かないで」と繰り返す。

彼が僕の身体を抱く手に力をぐっと込めて、囁いた。
「やっと言ったな。その言葉を聴きたかった。お前がホントに俺を欲しいと思ってくれているのか、知りたかった・・・」

あの時、無理やり繋いだ関係だったから、お前が本当に俺を好きなのかそれともただ身体の関係だけを望んでいるのか、それを知りたくて・・・でも言葉にできなかった。

お前から否定の言葉を聴きたくなかったから。



彼も同じことを考えていた?

そんな・・・?


「いいのか?言ってもいいのか?」



心も身体も離れて・・・・行かないで・・・。





10万Hit達成のお祝いにと言う事で「apuatrap」のKEIさまから素敵なお話し頂きましたvv
以前書いて下さいました、「後姿」の後日談だそうです。
KEIさま、素敵なお話し本当にありがとうございました〜〜〜vv